現在では目的地に行くために地図帳を広げている方の姿が少なくなりましたが、作家の永井荷風は出かける際によく地図をもって出かけており、見て楽しむ方法をよく知っていました。永井荷風が1914年から1915年に書いた『日和下駄』の中に、出かける際にいつも携帯に便なる嘉永板の江戸切図を懐中にしていたという文章があります。
永井荷風は現在の新宿区弁天町にあった根来橋と、持参した江戸切図を照らし合わせて、その近くに根来組同心の屋敷があったことを確かめることができてうれしくなったと記しています。時間が経過して姿や環境が変わることがあっても、地図に名前が残ることで、その土地の歴史を確かめることができます。地図はどんなに時が経っても、生き続けるのです。